こんにちは。 陽だまり歯科院長の猿田陽平です!
今回は歯科で使用する局所麻酔薬の副作用と、当院の対応についてご紹介したいと思います。
まず、【局所麻酔薬】と書きましたが、いわゆる【麻酔】と認識してもえればと思います。
【局所麻酔薬】の対義語は【全身麻酔薬】です。
その局所麻酔薬で死亡事故が起きていることをご存じの方もいらっしゃると思います。
そのようなニュースを耳にすると、
「そもそも麻酔薬って安全なのか?」
「そんな薬で治療を行って大丈夫なのか?」
のような不安をもたれると思います。
今回は、
- そもそも局所麻酔薬は安全な薬なのか
- 局所麻酔薬にはどのようなリスクがあるのか
- 何か起きた時にはちゃんと対応してもらえるのか
- こんな症状になったことがあるけどこれも副作用か
などなど、お話ししたいと思います。
分かりやすいように【副作用】としましたが、中には副作用ではないものも含まれていますので、以下【偶発症】とさせてください。
「局所麻酔薬は安全か?」
局所麻酔薬は本当に安全な薬なのか?
と聞かれますと
多くの場合で安全なことが確認されていますが、100%安全であると保証されているものではありません。
100%に足りない部分は医療従事者が適切に使用することによって、より100%に近づけています。
という回答になります。
局所麻酔薬には次のような偶発症のリスクがあります(内容については後ほど説明します)。
- 神経原性ショック
- 過換気症候群
- 局所麻酔薬の中毒
- 局所麻酔薬アレルギー
- 血管収縮薬の中毒
偶発症や副作用のリスクがあるというのは薬品全般で言えることで、局所麻酔薬に限った話ではありません。 そのため、作用ごとに薬品を分類し、その管理方法などに法的規制がかかります。
局所麻酔薬は【劇薬】に分類されていて、用法を誤った場合の毒性は強い部類です。
局所麻酔薬で起こる偶発症
局所麻酔薬で起こりうる偶発症を紹介します。
聞いたことのない名前もあると思いますが、名前は覚えなくて大丈夫です。
神経原性ショック
疼痛性ショックやデンタルショックとも呼ばれます。
医学用語における【ショック】は、一般会話における「ショックを受けた」というニュアンスとは大きく異なります。
ショックまたは循環性ショックとは、主に血圧が下がって、瀕死の状態になる急性の症候群のこと。
症状:
- 血圧低下
- 顔面蒼白
- 無関心状態
さらに進行すると脈拍微弱、意識消失をきたすこともあります。
原因:
原因は次の2つです。
- 麻酔や歯科治療に対する不安、恐怖、緊張などからくる精神的ストレス
- 麻酔時の痛み
これらがひきがねになり、ショック状態を起こします。
過換気症候群
いわゆる【過呼吸】という状態です。
症状:
- 換気過剰(呼吸をし過ぎている)
- めまい
- 意識水準の低下
- 手足や顔面の知覚異常、しびれ
原因:
麻酔や歯科治療に対する不安、恐怖、緊張などからくる精神的ストレスが原因です。
過換気によって二酸化炭素が過剰に排出され、血中の二酸化炭素濃度を上げるために脳血管が収縮し、その結果、脳への血液供給が不足することによって上のような症状になります。
局所麻酔薬の中毒
一般に【中毒】というと(慢性)アルコール中毒のように“依存症”のニュアンスで使われることが多いですが、ここでの中毒は次のような意味です。 急性アルコール中毒をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
生体に対して毒性を持つ物質が許容量を超えて体内に取り込まれることにより、生体の正常な機能が阻害されることである。
症状:
初期段階では
- 不安興奮
- 呼吸促進
- 血圧上昇
- 頻脈
- 頭痛
- めまい
- 吐き気
進行すると
- 意識の低下
- 全身的な痙攣
- 呼吸抑制
重篤になると
- 意識消失
- 血圧低下
- 徐脈
- 呼吸停止
原因:
血中の局所麻酔薬の濃度が上がり過ぎることが原因です。
その作用が局所の麻酔作用にとどまらず、脳にも作用してしまうことで起きます。
通常の局所麻酔では中毒になることはまれですが、単純に麻酔薬の量が多かった場合、直接血管に麻酔薬を注入した場合などに起こりやすいです。
局所麻酔薬アレルギー
花粉症と同様のアレルギー反応(Ⅰ型アレルギー)です。
局所麻酔薬の副作用を見ていると「アナフィラキシーショック」と書いてあることもありますが、Ⅰ型のアレルギー反応を【アナフィラキシー反応】と言い、アナフィラキシーによってショック状態になることを【アナフィラキシーショック】と言います。
局所麻酔薬アレルギーではこのアナフィラキシーショックが起こります。
症状:
- 皮膚症状(紅潮または発疹)
- 血圧低下
- 脈拍の触知不能
- 呼吸困難
- 顔面浮腫
原因:
生体の防御反応である免疫が、局所麻酔薬に対して過剰に起こっています。
正確には局所麻酔薬自体に対するアレルギーは非常にまれで、防腐剤として入っているパラオキシ安息香酸メチルという物質に対して起こることが多いです(当院の麻酔薬はパラオキシ安息香酸メチルを含まないものを使用しています)。
アレルギー反応なので、体質が原因となることが多いです。
血管収縮薬の中毒
局所麻酔薬には、麻酔を効きやすくするためや効果時間を長くするために、血管収縮薬(エピネフリン=アドレナリン)が含まれています。 この血管収縮薬の中毒です。
症状:
- 動悸
- 疼痛
- 不安
- 呼吸困難
- 血圧上昇
- 頻脈
局所麻酔薬中毒と似た症状ですが、こちらは一時的なものです。
原因:
血中の血管収縮薬の濃度が上がり過ぎることが原因です。
偶発症への対応
偶発症へ適切に対応するには、まず何が起こっているのかを理解することが重要です。 どのような偶発症が起きているのかを見極めた後、その偶発症に合わせた対応をします。
そのため、患者さんの状態を確認する器具、偶発症に対応するための薬剤や装置が必要になります。
当院では、万が一、偶発症が起きてしまった場合に備え、各種設備を整えています。
- 血圧計
- パルスオキシメーター(呼吸と脈の確認)
- ショック体位を取れる診察台
- 酸素吸入器
- 各種薬品(エピネフリン、硫酸アトロピンなど)
- AED
また、神経原性ショックや過換気症候群の原因は不安や恐怖からくるストレスです。 当院は医院理念として【ストレスフリー】を掲げており、ストレスの排除には普段から力を入れております。
特に麻酔時のストレスは苦手な方も多いと思いますので、次のページでご紹介しています。
歯医者での麻酔は怖くて当然!そのための当院の取り組みをご紹介します
当院で行っているなるべく痛みを感じずに治療を受けていただくための取り組みをご紹介しています。 歯科の治療では歯を削ったり、歯ぐきを切ったりと、痛みを伴う事が予想される治療を行うことがあります。 もちろんこの痛みは麻酔で抑えて治療をするわけですが、この麻酔自体の痛みが苦手な方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。 この記事を読んで「こんな風にしてもらえるなら麻酔も我慢できそう!」と感じていただけたら嬉しいです。
豆知識:過呼吸への対応
上でご説明した過換気症候群(分かりやすいよう以下、過呼吸)への対応です。
過呼吸は緊張や不安、恐怖などのストレスが原因で起こるので、歯科の現場でなくても起こります。
過呼吸になった場合の対応は「紙袋を口にあてがって呼吸させる」(ペーパーバック法)というのが有名です。 ご存じの方もいるかもしれません。
ですが、ペーパーバック法は次の理由から、今では第一選択とはなりません。
- 血中の酸素濃度が低くなりすぎることがある
- 血中の二酸化炭素濃度が高くなりすぎることがある
では何が正解かと言いますと、息こらえや深呼吸です。
過呼吸は血中の二酸化炭素が減りすぎていることが問題です。 息こらえや深呼吸で呼吸を整えてあげると、二酸化炭素が出ていく量が正常に戻り、症状が改善してきます。
あとは原因を取り除いてあげることです。 過呼吸になっているということは緊張や不安、恐怖などの精神的ストレスがあるということです。 しっかり声かけをして安心させてあげてください。
過呼吸は身近なところでも起こります。 もし過呼吸になっている人を見かけたら、まずはご自身が落ち着いてください。 焦りは相手に余計な不安を感じさせます。 その後、相手が呼吸を整えられるよう、適切に対処してみてください。
こんな症状も偶発症?
患者さん目線で「こんな症状になったことがあるけど、これも偶発症?」という疑問に答えていきたいと思います。
「おそらく○○○でしょう」のように書いていることが多いですが、これは実際に患者さんの状態を見ずに文章だけで判断しているためです。 当院で治療中に同じ症状になった場合にはきっちりと全身状態を確認させていただき、診断します。
麻酔をしたら気分が悪くなった…
おそらく神経原性ショックだと思います。
気分が悪くなった場合はすぐに僕に教えてください。 状態を確認した上で対処します。
多くの場合は治療を中断してリラックスしていただくと回復します。
麻酔をしたら動悸がする…
局所麻酔薬には麻酔の効果を高めるためにエピネフリン(アドレナリンの方が通りがいいかな…)が入っています。 この作用で動悸がする(ドキドキする)方がいます。
アドレナリンは交感神経を優位にするお薬なので、興奮状態をイメージすると分かりやすいと思います。
動悸は一時的なもので特に問題はありませんが、我慢できない場合はおっしゃってください。
麻酔をしたら息苦しくなった…
おそらく過換気症候群だと思います。
原因は不安、恐怖、緊張などからくる精神的ストレスなので、治療を中断し、心と呼吸を落ち着けていただけるよう対処します。
麻酔アレルギーがあると言われたことがある…
局所麻酔薬のアレルギーではアナフィラキシーショックが起こるので非常に重篤な症状が出ます。 もしそのような経験がある場合には、事前に必ず教えてください。
ご自身で「アレルギーかも?」と思われている場合には、神経原性ショックや過換気症候群であることが多いです。 「気分が悪い」程度に感じたのであればアレルギーではありません。
以前、麻酔が効かなかったことがある…
痛みに対する感受性の強い方には麻酔が効きにくい場合があります。 麻酔の量を調節することで効かせることができるので、痛みがある場合には遠慮なく教えてください。
また、炎症 が起きていると麻酔が効きにくいです。 炎症が起きている場所を治療したということはないでしょうか? この場合にも麻酔の量での調整や、先に炎症を抑えてから後日に治療、といった対処ができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
ニュースをご存じの方は「そもそも麻酔薬って安全なのか?」「そんな薬で治療を行っていいのか?」のような不安をもたれていたと思います。
歯科治療にはどうしても麻酔が不可欠なので、この記事を読んで少しでも安心していただけたらと思います。
陽だまり歯科はあなたのご相談をお待ちしております。